2010/11/26 (Fri) 20:59
ニナ誕!
1日遅れたけどやっぱり書きたかった…!
新名→←バンビでくっつくのくっつかないの
新名1年生かなぁ…のつもりで書いたのですが、べつに2年生でもいい話(…)
バンビの名前は彼女とかセンパイとかになってます。
続きにたたみます
↓
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1日遅れたけどやっぱり書きたかった…!
新名→←バンビでくっつくのくっつかないの
新名1年生かなぁ…のつもりで書いたのですが、べつに2年生でもいい話(…)
バンビの名前は彼女とかセンパイとかになってます。
続きにたたみます
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特別教室が並ぶ階に、いまは使われていない教室があるのを知っていた。
まだ入学してそう間がなかったから春の終わり頃だったろうか、
クラスの連中と休み時間、追っかけたり追っかけられたりしている間に偶然見つけた。
新名は好奇心を引かれやすいタチで、
だからそのときキリッとブレーキをかけるようにして足を止めたのだが、
戸の小窓から覗くと、理科室でなく、音楽室でなく、
本当にただの教室だった。
そうっと手を掛けて引けば、難なく開く。
空き教室でも、特に施錠されているわけではないらしい。
ほんの少し頭を入れただけだったから確かではないが、
黒板には何かが書かれて消された跡が、薄らと残っていたように思う。
なんとなく少し気味悪かったのは、
その割に机も椅子もあまりに整然としてしんと静まり返っていることと、
あとは僅かな既視感だ。
いや、既視感と言うか、
どちらかというと、未来を見たのかもしれない。
ややトリハダを感じたとき、連中のけたたましい足音と、
自分を呼びつける黄色い声が角を曲がってきた。
これは火急、とばかりに新名は戸をぴしゃりと閉じて、
特別教室の扉がずらりと並ぶ棟、
まっすぐ続く廊下の先を急いだのである。
反対側の視界には、やはりずらりと並んだ窓が流れていて、
霞のない良く晴れた空が、青いカラーテープが転がるように
とくとくと並走したのを覚えている。
* Never If, So True. *
そして、秋は夕暮れ。
晩秋だ。
新名はこの日わざわざ、あの日見つけた気味の悪い教室に、
今度こそ足を踏み入れてみる決意をした。
というと大仰だが、実のところはふと思い出した。
(どっかにふたりっきりになれる場所あったりしねぇ?)
終礼のホームルームの途中、机にべったりと伏して、
こっそり携帯画面を開き、親指では早くも出だしを打ちかけながら、
自問した答えを導こうと躍起になった。
ふたりっきりになりたい彼女とは同じクラブに所属していた。
新名は部員で彼女はマネージャーという、立場の違いはあるにせよ、
部活が始まればそりゃ、会える。
会えるのだが、ふたりきりで会える訳ではない。
部活が終わればふたりになれないこともないだろうが、
声を掛け損ねることもあるかもしれないし、掛けても用事があると言うかもしれないし、
ifの世界で語ってもこころもとなすぎる。
それでも、
明日ではダメだ。
きょうでないと意味がないから。
だから、確実に用事のない狭間を狙うなら、
ホームルームとクラブの時間のあいだにある、僅かな空白ではないだろうか。
なけなしの15分だか20分だかを確かに掴んで、
あわよくばふたりきりで、誰にも邪魔されないところへ彼女を呼び出したい。
そして、思い出したのがここだった。
努力はしてみるものである。
強くねがえば、それなりに名案というのは浮かぶものらしい。
メールにはこう書いた。
“なぁ、なんかへんな空じゃね? 見てる?”
ひかりの早さで返ってきた返事によれば、彼女は言われて見たらしい。
同意している。
雨の前兆だとか、虹のしっぽの痕跡だとか、
科学的な理論に当てはめれば何かしら理由のある空なのだろうが、
いましたいのは、そんな話ではなく。
“もっとよく見たくね?”
背の高い校舎に四方をくりぬかれて、四角いフレームに収まったのじゃなくて
もっと上の階から、なににも邪魔されないところから。
“いまから? じゃないと夜になっちゃうか”
“いいとこ知ってる。聞きたい?”
“聞きたい”
“聞いたらぜってー来てよね? オレってふられんの超傷つくタイプだから”
“知ってる”
そこで担任と目が合って背を正す。
膝の上で、“続きはあとで”とだけ送信した。
その「あと」が、ようやく「いま」に追いついて、
道案内したあとの携帯を折って握り、空き教室で一人待っている。
きっちりと引かれていた白いカーテンを全開にして、
隅っこにカラの水槽が伏せられている窓際に深く腰掛けると、
爪先が少し浮く高さ。
夕焼けというものは普通オレンジの濃淡の重層だが、
きょうはそうでなく、へんな色の夕暮れだった。
桜よりは濃いだろうか、ピンクと赤の中間の色の空を、
雨雲のような藍色の積層が細く細く、幾つも割って入って、
奇妙なストライプをつくっているのである。
恐らく、生まれて初めて見たはずだ。
そのへんな空をよく覚えておくために、
電気はつけないことにした。
◇
「こんなとこあったんだ」
と、彼女は開扉一番にそう言った。
方向音痴ではないらしく、簡素な説明でちゃんとたどりついたらしい。
そのことについて、新名は「さっすが〜!」と言って褒めた。
「オレより一年長くいんのに、知らなかったとかマジ?」
こっち、と手招きながら問うて、予め腕を広げておく。
敷居を跨ぎ、きちんと戸を閉じてから、彼女の歩幅で歩いてもたかが教室、
数えるまでもなく、指が届く範囲に入った身体を、
脇の下からうんと抱えて窓辺へ乗せる。
いや、正しくは、
脚の間へ引き入れて、すっぽりと抱き込んだのである。
「…えっ、なに」
そのようにした新名のことを、彼女は驚いていた。
当然だと思う。
手を繋いだことくらいはあったろうか、
それも、迷子にならないようにという大義名分つきの。
あとはふざけた延長で触れた肩をどさくさに寄せたり、
不意に揺れた船の上で、倒れかける彼女を支えただとか、
それくらいしかしたことがなく、
こんなふうに、抱きしめるために抱きしめるなんてことは、
そんなふうにしたことは一度もなかった。
けれども、そうしたかったのである。
少なくとも新名にとってはという意味ではあるが、
ずっと、長く長くそう思っていたのである。
「いいじゃんふたりっきりなんだから」
「……そうなんだけど、…え〜……?」
髪の匂いはこんなかんじ、シャンプーなに使ってんだろ、
と、鼻先を埋め込んで呼吸する。
しっくりと身体に沿わせた二の腕を叩いてくるのは紛いもなく彼女の鼓動の弾みで、
彼女もまた背中で、新名が打たせる心拍を感じているだろうか。
「『え〜』とかなんで? …まじダメっぽい?」
「ダメじゃない、と思うけど…近すぎじゃないかなぁとか……ノリ悪くてごめん」
「あ、もしか照れてるとか? センパイかーわいい!」
「……はは。ホントのこと言われるとマイッちゃうなぁ」
冗談で隠した本音を、冗談で返されると少し不安になる。
つい、確かめたくなってしまうから、
体温がちゃんと伝わるように、ひとまわりは小さな背中にぴたりと胸をつけた。
「やめる?」
「やめない」
「いまのマジかわいい」
「……ストライクゾーン広いんだね」
ふたりぶんの制服を隔てていても、
これだけドキドキしていることを伝えあってしまうこと。
核心に微妙に触れては、避てはするやりとりが歯がゆい。
それは互いが意識的にそうすることだったが、
身体のすることだけが隠せないでいる。
「なんで意地悪言うかな。カワイイじゃん。べつに冗談じゃないしー?」
「本気でもないし?」
「……あー、なんか難しい質問的な」
「ニーナのほうが難しい的な」
どんな表情をすればいいのかが、わからなくてへこむ。
彼女も同じ気持ちならばいいのにと思っている。
四角い切り抜きから解き放たれて、
満天になったへんな空が、高く高く、上から見ている。
ホームルームの教室から見るのでは十分でなく
ひとりで見上げるのでは足りないから
だから、こうしてふたりでここにいるのに
まだ一度も、目線を上げてはいないことを
———ねーセンパイ
気付いてても、てか気付いてるとは思うけど
もう少しだけ知らないフリしててくんない?
くっつけられるぶぶんをできるだけくっつけて、
甘えるように、擦り付けるようにしたから、
いつの間にか腕の一部が、彼女の胸にくい込んでいた。
「……やば」
「なにが?」
「うん? そう、あの、なんっつーか」
言いながら、ハッキリとした所作で髪から鼻先を抜き取った。
「へんな空消えそうでさぁ」
「———あ」
「その前に、一緒に見ねぇ?」
一応、そのためにここにいるはずだった。
見ないとあとで落ちついたときに、
いっこ上の彼女には全部ぜんぶバレてしまいそうで、
甘えを抜いて、折り目を付けたような声にした。
「アンタ見たことある? こんなの」
「初めて見た」
「うん。キレイと思う?」
「思う」
彼女はきっぱりと言ってから、少しだけ体重をかけた。
それを暗黙なサインとして、
今度は胸に触れないように、新名は抱き込み方をよくよく工面するのである。
「忘れらんない?」
「うん。たぶん。しぬまでにもう一回見れるかな」
「ふーん、わりかし気のなげー話すんね〜」
「あー、ノリ悪かった?」
「ぜんぜん。いんじゃね? しぬまえにもっかいアンタとこんなの見れたらしんでもいい」
言って、新名は一度言葉を切った。
口が滑った、滑りすぎたと、そう思った。
刹那の間にかっと頬が染まって、そっと寄せていただけの腕に思わず力が入ってしまい、
そのせいで彼女がひくと身じろいだ。
(なにオレどんだけ。こんなのほぼ告白じゃんか)
「なぁ、言っていい?」
「うん。と言ってみる」
「きょうオレの誕生日って言ったら、なんかくれる?」
予想通り、胸の中で振り向く彼女が、いままでで一番かわいく見えた。
その、なにかにつままれたようなまるい目は、
新名の言ったのをifの話として捉えているのだろうか、
それとも、正しく意味を読んで、真正直に驚いているのだろうか。
答えは、もう少しあとでわかるのだが、
そのときの新名には、それはまだまだ暗中にある。
「きょうがもしニーナの誕生日だったら、なにが欲しい?」
そう問うた表情の、僅かに滲ませた悪戯を、見抜けない男ではないはずなのに。
少し前までは、そのような野暮な男ではなかったはずなのに。
「アンタがくれるもんなら、別に何だっていいんだけど〜」
「……ふぅん」
どうせそんないいものは 期待どおりのいいものは
もらえるはずないしー? と、
そう続けようと思っていた。
「じゃぁこれ」
顔だけでなく、彼女が身体ごと振り向いたのと
キリと一文字に結んだ唇が、ピントがぶれるまでに近づいて
新名の唇の上でふと輪郭を歪めたのと
果たしてどちらが先だったろう
「———っ。」
初めて、おなじ感触で唇が圧された。
その拍子に、味わう前に早くも出してしまう声があり、
そんな自分の声を初めて聞く。
いや、たとえ初めてだって
こういうことをするときは、目くらい閉じられると思っていた。
例えば女の子のほうからされたなら、角度を変えて押し返せると思っていた。
なんだ
そんなのウソじゃん
ただただなにもできないだけじゃん
一文字の唇が、一文字の唇に重なっただけの、
短い短い初めての瞬間は、
文字どおり、瞬く間に過ぎていった。
離れた後の彼女は、ようやくピントを合わせていて、
向こうを向いて浅い息を継いでいた。
「た、誕生日、おめでとう」
「……期待以上。血管から脈飛び出そう」
「……やだった?」
「なんで、超嬉しかったのにそんなこと言うしー?」
せっかく祝ってくれるというのに、
目の合わないのは少し淋しい気がしたが、
目を合わせていたら、たぶん抱きしめることができなかったから、
きっと、これでいいのだと思った。
「マジあんがと」
再びに引き寄せた身体は、
これまでのどの彼女よりも熱くて、匂いが変わっていて
溢れた心拍の所為で震えている。
だから、こんどもう一度するときまでには、
しっかりしないとと思うのである。
「アンタと並んだ?」
「並んだ。でもちょっとだけだよ?」
へんなストライプは既におぼろに霞み。
暮れ行く空き教室で、きちきちと秒針の進む音がする。
「もー行かねーと怒られッかなー」
「うん、怒られるね、間違いない」
「なんかいい案考えてー? 凄腕のマネージャーっしょ?」
「三人寄るとモンジュの知恵が浮かびますが」
「じゃぁオレがふたりぶんがんばる」
「誕生日なのにがんばってくれると」
「いっこオトナんなったから」
電気をつけない教室でも、
順応していく視界で、常よりやや赤い頬がちゃんとわかる。
これだけ近づけばつかまえられるのだと、
誕生日の収穫は、そのことだったかもしれなかった。
「名案その1ー」
小さく囁いたのには訳がある。
そうすれば、期待十分でその先を聞こうとする彼女は、
新名の口許へと耳を寄せて来るに違いないから。
その渦巻きの底へ、
いつ、マジでスキだとバラそうか。
そのことのほうが、思いついた言い訳よりもよほど大事だったりした。
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