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rococoro
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2025/04/20 (Sun) 06:23
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2011/02/19 (Sat) 20:55
不二山×バンビで放課後の部室で二人きり的な
ここまで来てまだくっつくのくっつかないのやってます(…)
三年生の春くらい


バンビ視点
「わたし」だけで名前はでてきません
続きにたたみます









不二山くんは「変なスイッチ入る」って言うけど
いつもとなにがそんなに違うのか、
わたしにもっとわかればいいのに



すごく困った顔をしたように見えたから、
もうこんなふうに会えねぇなんて言うから、
そんなふうに言われたら、わたしも困った顔になってしまうから



あのとき



不二山くんの考えてることが、
正しく———とは行かないかもしれないけど、そこはなるだけちかい形で、
わたしにもちゃんとわかったらよかった




と、このあいだ出掛けたときのことを思い出しながら、
不二山くんのふくらはぎあたりを跨いで座り、
「35ー、36ー」とカウントしつつ、
さっきから調子良く反らされ続けている背筋を眺めている。


(こういうのはスイッチには関係ないのかな)


不二山くんは部活中にわたしがどれだけ身体に触れても、
一回も「スイッチ」は入ったことがなかった。
逆に、わたしはすごくドキドキする。わたしの場合これが「スイッチ」なのだろうか。


練習の最後のメニューは整理運動とストレッチだった。
クールダウンのためのメニューなのに、
わたしはなんだかかっかしていてひとり足並みを乱している形。


「50ー」
「よーし!」


不二山くんの号令に、一転ピリっとなって腰を上げた。
これは条件反射だ。
もやもやしていても、この声がかかると心に折り目がつく。


「きょうはここまで! 整列!」
「押忍!」


どこどことプレハブが揺れるような足音で下級生が集まって、
不二山くんを先頭に、わたしを末席に一列になって大迫先生の前に並ぶ。
始まりと終わりの、この敬礼のときの空気が、
わたしはもう三年も好きだ。





* わかるとかわからないとか、いまはまだこんなで *






気持ちいい春だった。
新しく入ってきた一年生も、二年生も、
みんな帰っただろうタイミングを見計らって、プレハブの部室に戻って来た。
出入り口からチラ、とのぞくと、
不二山くんだけが残っていて、けれど着替えがまだ途中で、かつ佳境だった。


「……!」


反射的にしゃがみ込んだ。
もうあと1分30秒ほど遅く来れば、不二山くんは完全に制服姿だったはず。
わたしにしては珍しく、惜しくもタイミングをつかみ損ねたことになる。


不二山くんの素肌は別に、初めて見たとかではない。
柔道というのはわりとはだけるスポーツで、
女子の選手は道着の下にTシャツを重ねる必要があるくらいにははだける。
だから、見慣れていると言えば見慣れているのだけれど、
見るタイミングじゃないときに、こうしてうっかり見てしまうと、
なんだか知らないがドキドキしてしまうのだ。


柔道部の部員はわたし以外は全員男で、ミーティングのあと着替えもここでする。
わたしの身体は特に成長が著しいわけではないけれど、男子と同じというわけでもないので、
いっしょになって威勢よく脱ぐわけにいかない。
カレンの好意に甘えて、女子バレー部の部室を借りて着替えをさせてもらっている。
四方山話に花を咲かせながらゆっくり着替えて更に話し込んで、
ようやっと、とカレンと別れてここに戻ると、柔道部の部室で不二山くんが待っている。
というのがいつものわたしたちの放課後だった。


1分30秒をしゃがんで待って、首を伸び上がらせてもう一度覗く。
良かった、不二山くんはもう肌色でなかった。
これ以上わたしの頬は赤くなれないので、いつもの不二山くんで本当に良かった。


「おつかれっす部長さん、迎えに来たよ」


カラッと軽快に引き戸を開けた。どもらないように気を付けたつもりだ。
不二山くんはスポーツバッグを開けてなんだかごそごそしていた。


「おー、おまえか。おつかれー」


振り返った不二山くんは頭から水を被ったような風情で、正直驚いた。


「ちょ、なんたることかまだ汗だくとはー?」
「いや、ていうか一旦拭ったんだけどな、あのあと個人的に稽古つけてくれって言われて、
 つきあってたらまたこうなっちまって、」
「そうだとしても、いくらなんでも水もしたたるすぎる」


靴を脱いで上がり込みながら、
わたしは自分のスポーツバッグの中でタオルを手探りにする。


「……やっぱ濡れたのしかねぇか。しゃーねぇ、これで」
「はい」


わたしがまっすぐに差し出したタオルを、不二山くんは目をまるくして受け取った。


「お、さすがおまえ。新しいの持ってたんか」
「基本です。なにがあるかわかりませんから」
「よしよし。ういやつ」


不二山くんは自分の汗を拭う前にまずはわたしの頭を撫でた。
ぶあつい手のひらがくしゃくしゃとするのが、たとえ髪が乱れても好き。


「いつも思うけど、どこに売ってんだこのタオル」
「どこにでも売ってると思うけど」
「そーか? なんか全然違うぞ俺のと」


言って、ぱふ、と顔を埋めるようにする。感触を楽しんでいるらしい。
わたしは、不二山くんが猫とか犬とかアルパカとか、
どうやらふわふわしているものをなでくりするのが好きなことを知っていた。
だから、どこにでも売ってるタオルでも、
上手に洗って上手に干せば、ふわふわになることを覚えた。


よほど本気で稽古をつけたのか、Tシャツが肌に貼り付いている。
ちょっと透明になっているくらいで、確かにかなり汗をかいていたみたいだ。
そのまま外に出たら寒いんじゃないかな、と思いながら見ていたら、
不二山くんがTシャツの裾をチラと捲って手を入れたので、
慌ててそっぽを向いた。


「まじあっちー」
「て、ていうか、せっかく新しいシャツ着たのにもったいなかったね」
「まぁな。つか古いタオルでもべつに良かったんだけど、時間がなかった」
「時間?」
「うん。そろそろおまえが戻ってくる頃だって思ったから。
 なんかやだろ、思いっきり着替え中んとこ見るのって。わかんねーけど」
「………」


わたしは押し黙った。
すみませんじつは思いっきり着替え中んとこを見ました。
という懺悔もさることながら、
不二山くんの言ったことは、わたしのスイッチを確かに押したような気がした。
ほとんど当たっていて、けれど、少しだけ違う。
「なんかやだろ」ではなくて、やなのかどうかがわからなくて困るのだ。


洗って返す、と言っているのをわたしは黙って頷きながら、
部室に妙にひびく、不二山くんのスポーツバッグの開閉音を聞いていた。


「どした?」


不二山くんは帰り支度をして、わたしの隣に立ったけれど、
突っ立ったまま動けないわたしを見てそう言う。



「何だ、急に黙って。気持ちわるくなったんか」
「そ、じゃないけど」


って言ってるのにおでこに手のひらを当ててくる。
それが不意になって、わたしはガラにもなくビクと肩をすくめてしまった。


「赤い顔して。やっぱちょっとへんだぞ、おまえ」
「…うん。へんかも」


心配そうに覗き込む顔につられて言ってしまった。
そして、こうも言ってしまった。


「へんなスイッチ入ったかも」


わたしの背には小窓があった。
そこから、もうすぐに沈もうとする夕焼けの名残りが射し込んで、
背中が赤く溶かされて、深い暖色に包まれる。



不二山くんの汗は乾いたかもしれないけれど
今度はわたしが欲しい
新しいふわふわのタオルが欲しいのだ



不二山くんはタオルはくれずに、またわたしの頭を撫でた。
こんどはくしゃくしゃでなく、そよそよと、髪が崩れないように撫でる。


俯いているばかりのわたしには、不二山くんがいまどんな顔をしているかがわからない。
いま、この顔を彼に埋めたら、半透明のシャツはどんな感触がするだろうかとか、
妙なことを考えてしまう。


「真似すんな」
「…だって」
「なら聞くけど、意味わかって言ってるのか」
「それは…その、わたしのスイッチのことだもん。不二山くんの意味は知らない」
「おまえのスイッチなぁ。……すげー上手く回避されたかんじする」


目の端で不二山くんが腕を伸ばしたのが見えた。
後ずさることができれば良かったけれど、わたしの後ろには窓があって、
それ以上はどうしても下がることができない。割って逃げるほどの場面でもない。
そっとそっと、背中が窓に押し付けられていくのが、決していやではないから。


「きれーだな」
「へっ」


思わず顔を上げたところには、不二山くんの真剣な顔があった。
そして、それはすぐに、少し悪い笑顔に変わる。そういうふうに見えた。


「きれーな夕焼けだな」
「な……なんだ夕焼けですか」
「おまえのことだと思ったんか」
「……みなまで言うな」


誰だそれって言いながら、近うよれとか言いながら、
迫って来る半透明のTシャツに向かって、
私はごんごんと拳を打ち付ける。
少しも堪えない厚い胸に、たった3度、真摯な悔しさを叩いた。


「夕焼けとおまえとどっちが綺麗とか聞かれると、ちょっと困るけど、
 これだけは言える。おまえのほうが好きだ」


わたしの拳は、不二山くんの胸でほどけた。
ほどけた指を、外側からぎゅっと包んで、手のひらの中で拳に戻したのは不二山くんだ。


ねぇずるい
それじゃもう叩けないじゃないですか
いまこの瞬間にこみあげてこみあげて、
溢れそうな想いを、



ぶつける方法がないじゃないですか



ふと近づく影に、わたしは目を閉じていた。
予想していたわけではない。
けれど、その角度で不二山くんが寄せた唇のことを、
わたしの中のどこかにあるスイッチが、きっとそうするんだと知っていた。


はじめてのキスは、放課後の夕焼けの味がする。
たぶん、これは、みんな違う味がするんだと思った。


だから、
わたしに教えてくれたのが不二山くんでよかった。


「……夕焼けより好きなだけ?」


問いかけたのは、唇が離れてから、沈黙が苦しくなる時間が流れたから。


「ん? なんだ、けっこうな好き具合だろ」
「そ、そうかもしれないけどなんか対象が、ひとじゃないのが」
「ひとと比べると失礼な気がした。おまえに」
「———」


このとき、やっとちゃんと、不二山くんと目を合わせることができた。
逆光のわたしは、どんな顔に見えているだろうか。
この言葉に相応しいだけのわたしに見えているだろうか。


「比べるまでもなく、おまえより好きになれるやつなんか、どこにもいねーし。
 まだ会ったことねーやつもいるだろうけど、そんな気がする。多分」
「多ぶ
「きっと。細かいとこは気にするな」


そして、今度は頬にキスをする。
赤くて赤くて恥ずかしいから、本当は触れないで欲しかった頬だ。


わたしは仕返しのようにして、同じように確かに赤い不二山くんの頬に背伸びで触れた。
ついでにぶら下がるようにして、首筋に顔を埋める。
どんな顔をしたらいいのか、わからなくなったからだ。


「やめろ。スイッチ入る」
「どうなるの」
「…あ?」
「もし、不二山くんのスイッチが、ホントに入ったら」


言ってから、言ったことの重大さに気付いて心臓が激しく打ち始める。
ぴったりと抱きついているぶん、脈拍がきっと不二山くんに伝わっているはずで、
剥がれようと思った瞬間に、腰をしっかりと掴まれた。


いよいよ逃げ場がないらしい。


「……不二山くん?」
「わかってねーの」


不二山くんはわたしの襟もとのリボンに手を掛ける。
かわいい形に見えるようにさっき何度か結びなおしたリボンだ。
その片方の端をぴ、とひいて、ビクと震えたわたしをおもしろそうに見た。


下方へ向かって滑らかに、ゆっくりとリボンは緩んでいく。
襟に摩擦が伝わって、首筋が少しくすぐったい。
わかってないと言われたけれど、わかるかもしれない。
いつもと少し違う顔の不二山くんから、怖いくらいに目が離せない。


「あ、あの、不二山くん…っ」


確かに少し強い語尾になったはずで、
不二山くんは引っ張っていた指をそこでぴっと止めた。
見返すばかりで言葉が続かないわたしがいる。


「答えはこうだ」
「……うん?」
「マジでスイッチ入ったら、ここで止めてられなくなる」
「———」
「だからあんまりするな。そういうこと」


もしヤだったら、だけどな


と、付け加えられた優しい声は、
抱えられた頭頂へ、言い聞かせるように注ぎ込まれた。


ヤなのだろうか
どうなのだろうか
ヤじゃなかったら、どうなのだろうか


言葉にはひとつもできない気持ちを、
いま言葉にするとわたしたちはどうなるのか、
緩く閉じた唇の隙間まで、つつと沸き上がって来る衝動を、
ただただ頷くことでごまかしていた。


背中が少しずつひんやりしてくる。
完全に陽が沈む前に。
電気をつけないと、なんて興ざめなことに気がついてしまう前に。


わたしから言ってしまおうか、なんて


不二山くんの腕の中で、
身じろぐように顔を上げて、彼に聞こえるようにだけ、
小さく小さく呼んでみる。




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