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rococoro
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2025/04/20 (Sun) 06:33
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2010/11/20 (Sat) 23:59
不二山→←バンビで部室ゲットからしばらくくらい
くっつくかくっつかないかという段階が好きなんですが、
たぶんそこまでもいってない

バンビの名前はあいつとかこいつとか彼女とかになってます
続きにたたみます





* なにかが動いて、名前はまだない *




朝晩が冷え込むようになってきた。
昼間は居眠りを誘うほどポカポカしてるのに、帰るころになると風が痛いくらいだ。
だからといって、武道を嗜むための部室にヒーターを入れるっていうのも、
なんか違うよなと思いながら、柔道着から制服に着替えている。


屋根があって畳が敷かれて、それも、とびきりいい匂いの新しいのが。
それだけで、十分すぎるくらいに幸運だから、
寒いぶんは身体を動かせばいいという結論に達する。


部室を出ると、
アイツが先に出て待っていた。
出入り口で座り込んでるから、危うく躓きそうになる。


「こんなところにいるな、ずれてろよ。踏むだろ」
「うんわかってる」
「うん、わかってるなら」
「寒すぎて動く気がしない。ときに不二山嵐、通るが良い。俺の屍を越えていけ」
「……通るが良いって言われてもな。つか誰だそれ」


埒があかない。
火になって移動させる程の場面でもなく、
俺は敷居を跨いで端っこの方から出ることにした。
こいつの言い方を借りれば、屍を迂回して外に出たことになる。


部活が終わると、月がかっきりと出てる。
夏ならまだ明るいくらいの時間だが、季節は早足で回ってんだななんて、
わりと毎日のように思う。
身体動かしたあとだから、寒いってよりか涼しいくらいで、
そのまま芝生の上を調子良く数歩進み出る。


「あ、待って!」


先に帰ったりはしないのに、後ろからかかる声は幾分必死だ。
簡易なカギをギコギコ言わせて締める音も、急いでいるかんじがする。
少しずつ歩いて、アイツが合流するのを待っているが、
それにしても遅い気がして振り向いた。


なにやってんだか


アイツはまだそこで、ギコギコやってる。
焦っているのは後ろ姿からも明らかで、
漫画なら頭から汗の粒が幾つか飛んでそうな場面。


「どうしたー?」
「だって、手が、手がぁ…」
「……あ?」


ケガでもしたのかと思ってしまいそうな言い方に少し焦って、
進んでいた距離を一気に戻った。


「見せてみ、指でも切ったんか」
「……ううん、そうじゃな」


否定の言葉が届くより先に、俺はその手を取り上げていた。


「っ、不二山くん…!」
「……切れてはいないな」


小さな銀色のカギをつまんだままの手のひらだ。
ケガじゃないなら俺の早とちりでいいんだが、


ってなんだその顔


と思ったのが口に出た。
すげービックリしたみたいな、まるい目を更に丸くして、
瞬き忘れたのかというような顔で、
しっくりしっくり俺を見る。


「なんだその顔」
「だって。……手」
「手?」


言われて初めて気がついた。
こいつの手が、俺の手よりずっと小さかったこと。
そして俺よりずっと細い指を、どうやら俺は撫でるみたいな手つきで、
触れていたらしいこと。


「———悪ぃ!」
「べ、つに、いいけど!」


得てして、やはり彼女の返事を聞くより先に、
半ば放り出すように、手を解いた。


そして、手のひら全体に妙に風を感じる。
すぅっと表面を撫でてく涼しさと、反してなかみは脈打つように熱くて
この手をどうすればいいんだろう。


それから、アイツは一転して上手にカギを閉めた。


「はい、部長。戸締まり完了」
「あ、あぁ」


預けられたカギには少し暖まった感があった。
こいつの付けた無駄にでかいキーホルダーがポケットからはみ出る。


りらナントカとかいうらしい、パンケーキみたいなクマのやつ。
正確にはクマにくっついてるトリのやつ。
それが、歩き始めたケツんとこで、いちいち跳ねる。
いつもと同じことが起こっているだけなのに、
今夜は妙に気恥ずかしくて、いただけない気がした。


「……さっきは、悪かった。ケガでもしたのかと思ったからさ」


無言でいることは特に気にならないタイプのはずが、
俺は珍しく自分から話題を振った。


「ううん。ちょっと誤解招く言い方したかもだよね」


手がかじかんでいて、上手くカギが閉められなかったと彼女は説明した。
確かに、と俺は頷く。


「屍になるまで外で待ってりゃ、そうもなるわな。
 つか、おまえは先帰ってもいいんだぜ。寒ぃし」
「……押忍。とは言えない提案ですね。見込みあるマネージャーとしては」
「そうは言うが、いまはまだマシだとして、冬になってもああやって待つんか?」


その頃には
空気なんかもっともっと澄んでさ


雪降ったりするぞ、と俺が言うと、
星が降ったりするかもしれないと彼女は返して、
だから、ぽかんと待っている間には、その瞬間を見られるかもしれないと、
そんなことを付け加えた。
横顔は、ただひたすらに指先に息を吹きかけていた。


「けど、確かに冷えるよね! 否定できない!」


白く色づいた空気が、
表情をはっきりと見せてくれた所為で
嬉しそうに笑う時のこいつが、
なんかすげーキレイなんじゃないかってことを
俺は初めて知ってしまった。


渡れば繁華街という横断歩道、そのとき信号は赤だった。
言い出そうかどうしようか、
けど、言い出した方がいいだろうなと、
俺の心を決めさせたのは眼前に現れたひかりの海で、
いやでも目に入ってくる、華やかなクリスマス仕様の装飾だったと思う。


「おまえ、誕生日とか、近かったりするか」
「近かったり? うん、するね」
「…まじか」


いや、クリスマスプレゼントにって言っても良かったんだが、
俺とこいつは部長とマネージャーというだけの関係だから、
いきなりクリスマスというのはなんか照れた。
だから、誕生日が近かったらそれにかこつけてもいいなと思った、
そのくらいが適当だろうと、
そういうことだ。


「じゃ、手袋買ってやる」
「……へ?」
「なんだよその顔は。いらないんか」
「い、いる! ……いる」


ものすごく、照れた顔をした。
白い息程度じゃなく、ひかりの海が表情を暴き出したことで、
今度ははっきりとそれがわかった。


同時に、俺の方も、きっとそうなっているはずで
彼女にもそれが、きっと伝わったはずで


「ア、アレだ、いつも世話になってる礼としてっていうか、
 凍えた屍になってもらっちゃこの先いろいろ困るっつか」
「う、うん、手袋があればひゃくにんりき」
「鬼に金棒だろ」
「うん! ……っていまのは、ちょっとうれしくないかも」
「……だな」


信号が青になるまでが、長く長く思えて
ようやく一歩、踏み出せたときには再びケツんとこでふわふわのトリが跳ね始めて、
全然シマらねぇって思った。
もっといいモンあげられるようになりてぇとかも、思ったのかもしれない。


この秋
俺たちがもらったものは、小さな部室がひとつだった。
更衣室は、まだない。


部員はいまんとこ俺だけで、
幸か不幸かマネージャーはこいつで、女で、
だから終了時間になると何気なく出てって、
俺が着替えて出てくる頃には、体操着から制服に替わったこいつが、
ちゃんと出口で待っててくれる。


仮にこいつが男だったら、寒いだろ、入れよって言えるのに
どっちが良かったんだろうなんて、今更悶々と考えながら、
イルミネーションを横目にする、いつもの帰り道が違って見えた。


「なぁ、なんか食ってかねぇ?」
「いいね、お腹すいた」
「んじゃ、おごる」


ちょうどそこにあった暖簾を指差した。
ただのラーメン屋。
嬉しそうにしてくれて嬉しい。


「よし。何でも頼めー」
「押忍!」


引き戸がからりと砂を噛んで軋んだが、その時の俺は、
まだこいつが注文の最後に「大盛りで」を付け加えることを知らなかった。
それが、こいつを好きになる一番のきっかけになることも、まだ知らない。




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